Security 2026年8月28日

第6回 生成AIツール側の設定で守る — 開発者と管理者が実際に触る項目

ChatGPT / Claude / Gemini の管理者設定を横断比較し、学習利用・保持期間・共有範囲・コネクタ・監査ログ・SSO の7軸で何が設定でき、何が設定では解けないかを整理する。個人プランと法人プランの断絶、設定の優先順位、設定が効いていることの確認方法まで扱う。

難易度基本的な操作を一度試したことがある前提です種別学習コース

この回のキーメッセージ

一度設定すれば全員に効く層を先に作る。個人の判断力に頼るのは、その後で残った分だけにする。

第2回から第5回までは、Claude Code や Codex の権限・承認・Hooks・MCP という「開発環境の側」を扱ってきました。今回は視点を変えて、ChatGPT / Claude / Gemini という 生成AIサービスそのものの設定画面 を見ます。開発者が自分のアカウントで触る項目と、管理者がワークスペース全体に効かせる項目の両方が対象です。

設定が重要なのは、判断より前に効く からです。「機密情報を貼らない」という運用ルールは、貼ってしまった瞬間に破られます。一方で「学習利用をオフにする」「共有リンクを組織全体で無効化する」という設定は、誰がどう操作しても結果が変わりません。

なお、各社のプラン構成とデータ方針は変更が頻繁です。本記事は2026年8月時点の公式ドキュメントに基づきます。契約前には必ず最新の公式ページを確認してください。 記事中で確認が取れなかった項目は、推測で埋めずに「公式ドキュメントで要確認」と明記しています。

1. 設定で解ける問題と、解けない問題

最初に線を引いておきます。設定画面をいくら詰めても届かない領域があり、そこを混同すると「設定したから大丈夫」という誤った安心が生まれます。

設定で解ける設定では解けない
性質サービス側の挙動が変わる。全ユーザーに一律で効く入力のたびに人が下す判断。設定は関与しない
入力をモデル学習に使うか、履歴を何日残すか、共有リンクを組織外へ出せるか、どの外部サービスに接続してよいかこの資料を貼ってよいか、この生成コードを本番に入れてよいか、この出力を顧客へ渡してよいか
失敗の形設定漏れ。誰も気づかないまま既定値で運用が続く判断ミス。ルールはあったが守られなかった

左側は今回の主題です。右側は本連載の範囲外で、既存の別連載が扱っています。入力してよい情報の判断軸は業務AI安全利用ガイド第2回、生成物と外部から来る入力の扱いは同第6回を参照してください。

もう一点、混同されやすい対応関係があります。「モデルの学習に使われない」ことは「保存されない」ことを意味しません。 学習利用と保持期間は別々の設定であり、学習に使われない契約でも、ログは一定期間サービス側に残ります。この2つを分けて確認する癖をつけると、比較表が読みやすくなります。

2. 3ツール横断で見る、管理者が触れる設定

自社の状況を当てはめられるよう、7つの軸で並べます。プランによって変わる項目は、変わること自体を明示しています。

確認軸ChatGPT(OpenAI)Claude(Anthropic)Gemini(Google)
学習利用のオプトアウト個人(Free / Plus / Pro)は「Improve the model for everyone」が既定オン。Settings → Data Controls で各自オフにする。Business / Enterprise / Edu は既定で学習に使われないFree / Pro / Max は2025年8月28日の Consumer Terms 更新以降、学習利用を選ぶ形式。Privacy Settings でいつでも変更可。Team / Enterprise / API は既定で学習に使われないWorkspace 版はプロンプトを CDPA 上の顧客データとして扱い、許可なくモデル学習に使わない。Consumer 版は Gemini アプリ アクティビティの設定に依存する
データ保持期間削除したチャットと Temporary Chat は30日以内にシステムから削除。API は既定30日(/v1/conversations/v1/assistants などは削除するまで保持)Consumer は学習利用オンで5年、オフで30日。Team / Enterprise / API は標準30日。Enterprise はカスタム保持制御ありConsumer は既定18か月(3 / 18 / 36か月、または自動削除しないから選択)。オフでも最長72時間保持。人間レビュー対象になったチャットは最長3年。Gemini API 有料枠のログは既定最大55日(7 / 14 / 28 / 55日から選択)
管理者による一括強制Enterprise / Edu は Workspace settings の Permissions & roles で共有機能などを全体オフにできる。Business は制御範囲が狭い。学習トグルそのものを管理者が上書きできるかは公式ドキュメントで要確認Team / Enterprise で SSO 必須化と、検証済みドメイン配下ユーザーによる新規組織作成の制限が可能。Enterprise はカスタムロールと保持制御管理コンソールの「生成 AI → Gemini アプリ」で OU またはグループ単位に ON / OFF(反映まで最長24時間)。アクティビティ設定自体を管理者が強制できるかは公式ドキュメントで要確認
共有リンクの既定公開範囲Enterprise はパブリック公開が既定オフで、管理者が有効化しない限り使えない。Business はワークスペース内に限定。管理者は共有リンク自体を全体で無効化できるProjects は Public(組織内全員)と Private(招待のみ)の2種。Owner は「Disable public projects」で組織全体共有を止められる。組織外への公開リンクは公式ドキュメントで要確認Gem の共有は管理コンソールで OU 単位に ON / OFF。共有された Gem は Google ドライブに保存されるため、ドライブの共有設定がそのまま効く
外部コネクタの許可制御Enterprise / Edu は Connectors が既定で無効。管理者が個別に有効化し、RBAC でロールごとに制御するClaude Code は managed-mcp.jsonallowedMcpServers / deniedMcpServersallowManagedMcpServersOnly で組織全体を制御。拒否リストが許可リストに優先公式ドキュメントで要確認(今回の調査範囲では、コネクタ相当の管理者許可制御を確認できず)
監査ログAudit Logs API は Enterprise / Business。Compliance Platform は Enterprise / Edu監査ログと Compliance API は Enterprise 限定管理コンソールの「レポート → 監査と調査」に Gemini for Workspace ログイベント。利用できるエディションの全一覧は要確認
SSO / SCIMBusiness は SAML / OIDC の SSO に対応するが SCIM 非対応、かつ SSO の範囲は ChatGPT のみで platform.openai.com には及ばない。Enterprise / Edu は SSO + SCIM + RBACSSO は Team / Enterprise 双方(JIT プロビジョニング)。SCIM は Enterprise のみWorkspace アカウント基盤の SSO と自動プロビジョニングをそのまま使う。Gemini 専用の SCIM 設定は確認できず

表から読み取れる共通の構造が3つあります。

  1. 既定値の向きが、個人プランと法人プランで逆になっている。 同じ製品名でも、どのプランで入っているかで初期状態が反対になります。
  2. 監査ログは最上位プランに寄っている。 事故のときに何が起きたかを追えるかどうかは、契約プランでほぼ決まります。
  3. 共有の既定が「組織内」で止まるとは限らない。 Gemini の Gem はドライブの共有設定を継承するため、ドライブ側が組織外共有を許していれば Gem も外へ出ます。AI ツール単体を見ても全体像は揃いません。

3. 個人プランと法人プランの断絶

前節の表を管理者の視点で読み直すと、はっきりした断絶が見えます。個人プランには、管理者が強制できる項目がそもそも存在しません。

理由は構造的です。個人プランには管理対象となるワークスペースがなく、SCIM も監査ログも Compliance API も、その多くが Team 以上、あるいは Enterprise 限定で提供されています。

この構造から導かれる結論は1つです。

会社の情報を扱うなら、法人プランを契約すること自体がセキュリティ対策になります。

根拠は3点あります。

  • 既定値が変わる。 ChatGPT の Business / Enterprise / Edu、Claude の Team / Enterprise / API は、いずれも既定で入力がモデル学習に使われません。個人プランでは各自が設定画面を開く必要があり、全員がやったことを確認する手段もありません。
  • 強制できる。 Claude の SSO 必須化、ChatGPT Enterprise の共有機能の全体オフ、Gemini の OU 単位でのサービス ON / OFF は、どれも個人の操作で覆せません。設定が「お願い」から「仕様」に変わります。
  • 追跡できる。 監査ログと Compliance API があって初めて、誰がいつ何をしたかを事後に確認できます。これが無い環境では、初動で調べる対象そのものが存在しません。

逆に言えば、個人プランで業務データを扱う運用は、設定による防御をほぼ諦めた状態 です。この場合に残るのは利用者の判断だけであり、第1節の右側の列に全体重を預けることになります。

4. 何から設定するか — 影響の大きい順

すべてを同時に完璧にはできません。効果の大きい順に4つ挙げます。

  1. 契約プランを法人向けに揃える。 これが最も影響が大きく、これをやらない限り以降の3つが実行できません。設定作業ではありませんが、順番としては先頭に来ます。
  2. 共有リンクの既定を閉じる。 情報が組織の外へ出る経路として最も短く、事故が起きたときに取り返しがつきません。ChatGPT Enterprise のパブリック公開、Claude の「Disable public projects」、Gemini の Gem 共有と背後のドライブ共有設定を確認します。
  3. 外部コネクタを既定で閉じ、必要なものだけ開ける。 接続先が増えるほど、AI が読み書きできる範囲が広がります。ChatGPT Enterprise / Edu の既定無効を安易に緩めないこと、Claude Code では allowManagedMcpServersOnly による承認カタログ方式を採ることが要点です。外部連携自体のリスクは第5回で扱います。
  4. 監査ログを取得できる状態にし、実際に引けることを確かめる。 契約上は使えるはずでも、API キーとスコープを用意していなければ、発生時にその場で準備することになります。

学習利用のオプトアウトを先頭に置いていないのは、法人プランを契約した時点で既定オフになる項目だからです。個人プランのままオプトアウトだけを徹底する運用は、順番が逆になっています。

5. 設定したことを、どう確認するか

設定画面でオンになっていることと、実際にそう動いていることは別です。 画面上の状態は意図を示すに過ぎず、反映の遅延、対象範囲の指定ミス、別レイヤの設定による上書きで、期待どおりに動かないことがあります。

確認したいこと確認の方法注意点
共有リンクの公開範囲発行したリンクを、ログアウト状態のブラウザと組織外のアカウント の両方で開く自分のアカウントで開くと必ず見えるため、確認にならない
管理者設定の反映対象 OU / グループに属する一般ユーザーのアカウントで、実際に機能が消えているかを見るGemini の管理コンソール設定は反映まで最長24時間 かかる。直後に確認して「効いていない」と判断しない
コネクタの許可範囲一般ユーザー権限で接続を試み、許可していないサービスが選択肢に出ないことを見る管理者アカウントは RBAC の上位ロールを持つため、一般ユーザーとは見え方が違う
監査ログが引けるかCompliance API / Audit Logs API を実際に呼び、直前に自分が行った操作が記録されているかを照合する「プランに含まれている」ことと「キーとスコープが用意され、叩ける」ことは別
保持期間削除操作の後、履歴画面から消えることを確認する画面から消えることと、バックエンドから消えることは別。後者は公式ポリシーの記載を根拠にするしかない

最後の行は確認の限界をそのまま示しています。利用者側で検証できるのは画面上の挙動までで、サービス側の内部保持は契約と公式ポリシーを根拠にするしかありません。 検証できない項目を「確認済み」として扱わないことが要点です。

Claude Code はローカル側にも確認対象があります。セッションのトランスクリプトは ~/.claude/projects/ にプレーンテキストで既定30日キャッシュされ、cleanupPeriodDays で調整できます。サービス側の保持期間だけを見て、手元の端末に残る分を見落とさないようにします。

6. API・CLI 経由は Web UI と条件が違う

開発者にとって見落としやすいのが、同じモデルでも経路が変わればデータの扱いが変わる 点です。

経路確認できている扱い
OpenAI API2023年3月1日以降、明示的にオプトインしない限り学習に使われない。既定の保持は30日。ただし /v1/conversations/v1/assistants など一部エンドポイントは削除するまで保持される
OpenAI の ZDRAPI プラットフォーム限定 で、設定画面のトグルではなく OpenAI の事前承認が必要。組織またはプロジェクト単位で適用され、有効時は一部エンドポイントの store が強制的に false になる
Anthropic API入出力はバックエンドで受信・生成から30日以内に自動削除される。ZDR 適格アカウントはレスポンス返却後に保持しないが、2026年6月9日以降は安全対策目的で対象モデルのプロンプトと出力を30日間保持する運用に変更 されている
Claude Codeサインインしたアカウント種別に連動する。Pro / Max(Consumer)では Consumer の方針が、Console 発行の API キー(Commercial)では Commercial の方針が適用される
Gemini API無料枠は送信内容と生成結果が Google の製品改善に使われ、人間のレビュアーが読むことがある。有料枠は使われない。 課金アカウントに紐づくプロジェクト経由であれば Paid Service として扱われる

実務上、最も事故につながりやすいのは最後の2行です。

Claude Code を個人の Pro / Max でサインインしたまま業務リポジトリで動かすと、組織が Enterprise 契約を結んでいても、その経路には Commercial の方針が適用されません。 契約したから安全になるのではなく、契約した経路でサインインして初めて効きます。端末で claude がどのアカウントで認証されているかは、管理者から見えにくい部分でもあります。

Gemini API も同様で、検証目的で取った無料枠のキーをそのまま業務コードに使い続けると、送信内容が製品改善に使われる条件のまま運用に入ります。無料枠は「安いプラン」ではなく データの扱いが異なる別条件 です。

Codex についてはCodex Enterprise 管理に Enterprise 既定の整理があります。ChatGPT のプラン経由と API キー経由の扱いを 公式に対比した記載は今回確認できなかった ため、実際の契約内容は各社の担当とすり合わせてください。

まとめ

  • 設定で解けるのは学習利用・保持期間・共有範囲・接続先まで。入力してよい情報の判断と、生成物を使ってよいかの判断は設定の外側に残る
  • 既定値の向きは個人プランと法人プランで逆になる。監査ログと SCIM は最上位プランに寄っており、事後に追跡できるかは契約プランでほぼ決まる
  • 会社の情報を扱うなら、法人プランの契約自体が対策になる。既定値が変わり、強制でき、追跡できるようになる
  • 設定画面の状態は意図に過ぎない。共有リンクは組織外アカウントで開き、監査ログは実際に呼んで確かめる
  • 同じモデルでも経路で条件が変わる。Claude Code はサインインしたアカウント種別に、Gemini API は無料枠か有料枠かに連動する

参考リンク