ChatGPT の一時チャットに個人設定と保存の選択肢 — 「一時的」と「個人化されていない」が別の軸に分かれた
ChatGPT の一時チャット(Temporary chat)に2つの選択肢が追加された。開始時に「個人設定を効かせる」を選ぶと、既存のメモリ・カスタム指示・プラグインを参照した応答が得られる。ただし新しいメモリは作られず、保存しない限り履歴にも残らない。この指定は開始時のみ可能で、会話開始後は変更できない。既定は従来どおり非個人化。もう1つは保存で、役に立った一時チャットを通常チャットへ変換して履歴に追加できる。保存した時点でアカウント側の個人化設定とモデル改善設定に従うようになる。これまで束になっていた「履歴に残さない」と「個人化しない」が、独立した2つの軸に分離された。
ニュース原文を読む ↗要約
2026-08-27 の ChatGPT リリースノートで、一時チャット(Temporary chat)に2つの選択肢が追加されました。
これまで一時チャットは一択でした。何も引き継がず、何も残さない。メモリもカスタム指示もプラグインも効かず、会話は履歴に入らない。「使い捨ての ChatGPT」として、機密の相談や、普段の文脈を持ち込みたくない検討に使われてきました。
今回入ったのは次の2つです。
1つめ、開始時に「個人設定あり」を選べるようになりました。 選ぶと、そのチャットは既存のメモリ・カスタム指示・プラグインを参照して応答します。ただし条件があります。新しいメモリは作りません。 そして保存しない限りチャット履歴にも残りません。 つまり「読むが、書かない」という非対称な設定です。
この指定には制約があります。チャット開始時にしか指定できず、会話が始まった後では変更できません。 途中で「やっぱり個人設定を効かせたい」はできない。逆も同じです。
2つめ、一時チャットを後から保存できるようになりました。 会話が後々役に立つと判断したら、チャット履歴へ追加できます。保存すると通常のチャットへ変換され、以降はアカウント側の個人化設定とモデル改善の設定に従います。たとえばメモリを有効にした状態で保存すれば、その内容は履歴の一部となり、以降の応答の個人化に参照されうる状態になります。
この2つを合わせて見ると、変更の本質が見えます。 これまで「一時チャット」という1つのスイッチに、「履歴に残さない」と「個人化しない」という2つの性質が束ねられていました。 今回それが独立した軸に分かれた。片方だけが欲しい場面は実際にあります——普段のカスタム指示は効かせたいが履歴には残したくない、あるいは最初は残すつもりがなかったが結果的に有用だった。その両方に手当てが入りました。
既定は変わりません。何も選ばなければ従来どおり非個人化で、メモリもカスタム指示もプラグインも使わず、新しいメモリも作りません。
何が変わったか
- 一時チャットの開始時に「個人化する / しない」を選択できるようになった(既定は「しない」)
- 個人化した一時チャット: 既存のメモリ・カスタム指示・プラグインを参照して応答する。新しいメモリは作らず、保存しない限り履歴にも残らない
- 個人化の指定は開始時のみ。会話開始後は変更できない
- 一時チャットの保存が可能になった。保存すると通常のチャットへ変換され、以降はアカウント側の個人化設定とモデル改善設定に従う
- 非個人化の一時チャットの挙動は従来どおり(メモリ・カスタム指示・プラグインを使わず、メモリも作らない)
- ロールアウトは段階的。対象プランの明記は公式になし
業務インパクト(一般企業向け)
「機密性の高い相談は一時チャットで」という社内ルールを持っている組織は、書き換えが必要です。 これが一番はっきりした影響です。
これまでは「一時チャットを使う」と言えば、それだけで「何も残さない」を意味していました。今後は違います。利用者が開始時に個人化を選んでいれば、既存のメモリとカスタム指示が参照されます。 会話の内容は履歴に残らないとしても、過去の文脈が持ち込まれている状態です。この差は、社内ルールの文面としては無視できません。
ルールを書き換えるなら、こう分けるのが実用的です。「履歴に残さないこと」が目的なのか、「文脈を持ち込まないこと」が目的なのか。 前者なら個人化ありでも構いません。後者なら明示的に非個人化を指示する必要があります。多くの社内ルールは、この2つを区別せずに書かれています。 区別されていなかったのは、これまでツール側が区別していなかったからで、ルールの側の落ち度ではありません。ただ、今日からは区別が必要です。
「開始後は変更できない」という制約は、運用上むしろ助かります。 途中で切り替えられる設計だと、「どの発言がどちらのモードだったか」が曖昧になります。会話単位で固定されているなら、その会話全体の扱いが1つに決まる。監査やインシデント対応の観点では、この不可逆性は好ましい設計です。ただし利用者への周知は必要で、「後から変えられない」と知らないまま始めると、やり直しになります。
保存機能は、シャドー IT の温床にも解決策にもなりえます。 現場でよくあるのは、一時チャットで得た有用な回答を個人のメモアプリやローカルファイルへコピーする動きです。会社の管理外へ情報が出ていく。保存機能があれば、その内容は ChatGPT の履歴として残ります。管理された場所に留まるという意味では改善です。
一方で、保存した瞬間にアカウント側のモデル改善設定に従うという点は、明確に周知すべきです。「一時チャットだから安全」と思って話した内容が、保存操作ひとつでアカウントの通常設定下に移ります。Enterprise / Team 契約であればモデル改善に使われない設定が組織単位で効いているはずですが、個人アカウントを業務で使っている人にとっては意味が違います。ここが実務上の分岐点です。
情シスとして確認すべきは、この機能が自社の契約プランでどう出るかです。 公式は対象プランを明記していません。段階的ロールアウトなので、同じ社内でも見える人と見えない人が出る期間があります。「メニューに無い」という問い合わせが来る前提で、周知の文面を用意しておくと手間が減ります。
副業・個人活用視点
この変更は、個人利用者にとっては純粋に便利です。 これまで一時チャットを使うと、丁寧に書き込んだカスタム指示が全部無効になっていました。「口調はこう」「専門分野はこれ」「結論から書く」——毎回設定し直すのが面倒で、結果として一時チャットを使わなくなっていた人は多いはずです。個人化ありを選べるなら、その理由が消えます。
クライアントワークでは、使い分けが具体的に効きます。 複数のクライアントを持っていると、A社の案件の文脈が B社の相談に混ざるのは避けたい。メモリが強力になるほど、この混線のリスクは上がります。案件ごとに非個人化の一時チャットを使えば、その会話は他の案件の文脈を持ち込みません。逆に、自分の基本的な仕事の進め方(カスタム指示に書いてあるもの)は効かせたい場面もある。「どちらが欲しいか」を案件ごとに選べるのが今回の変更の実質です。
保存機能は、副業の時間管理に直接効きます。 一時チャットで良い回答が出たとき、これまでは「コピーしてどこかに貼る」しかありませんでした。この一手間が積もると、後から探せない知識の山になります。保存できるなら、ChatGPT の履歴検索で見つかる。知識を貯める場所を1つに寄せられるのは、副業のように可処分時間が限られている働き方では効いてきます。
ただし、業務で個人アカウントを使っているなら、保存の意味を正確に理解してください。 保存はアカウント側のモデル改善設定に従うという移行を伴います。クライアントの機密情報を含む会話を保存するかどうかは、契約次第で判断が変わります。 「便利だから保存する」を無条件の習慣にすると、後で説明できない状況を作ります。一時チャットで始めた理由が機密性だったなら、保存しないのが元の判断と整合します。
支援先へ提案する立場なら、この変更は「AI 利用ルールの棚卸し」の入口として使えます。 多くの企業の AI 利用ルールは「機密情報を入力しない」「一時チャットを使う」といった粗い粒度で書かれていて、ツール側の仕様変更に追随できる構造になっていません。今回のように「同じ名前の機能の中身が変わる」ことは今後も起きます。ルールを機能名で書くのではなく、達成したい状態(履歴に残さない/文脈を持ち込まない)で書き、その実現手段を別表で管理する——この書き方への移行を提案できると、単発のルール修正より価値のある仕事になります。