Cloudflare Digital Experience Monitoring (Cloudflare One)
WARPデバイスから送出されるテレメトリと合成テスト(Synthetic Tests)を集約し、ユーザー端末からSaaS・社内アプリ・Tunnel配下のオリジンに至るまでのエンドツーエンドな到達性とパフォーマンスを可視化するDEX(Digital Experience Monitoring)サービスである。
Digital Experience Monitoring (Cloudflare One)
一行サマリ
WARPデバイスから送出されるテレメトリと合成テスト(Synthetic Tests)を集約し、ユーザー端末からSaaS・社内アプリ・Tunnel配下のオリジンに至るまでのエンドツーエンドな到達性とパフォーマンスを可視化するDEX(Digital Experience Monitoring)サービスである。
解決する課題(Why)— リモートワーク時代の「ユーザー側起因の障害」可視化
従来のAPMやサーバー側モニタリングは「オリジンからの応答」までしか見ておらず、ユーザー宅のWi-Fi品質・ISPの経路問題・端末のCPU/メモリ枯渇・WARPの接続不全など、サーバーサイドからは観測できない領域が完全な盲点となっていた。リモートワーク常態化により、ヘルプデスクへの「なんか遅い」という曖昧な問い合わせが急増しているが、これを再現・切り分けする手段が長年欠けていた。Cloudflare DEXはWARPクライアントが既に各端末に入っている前提を活かし、以下を解決する。
- 端末ごとのCPU・メモリ・接続先colo・WARP接続状態を一覧で把握できる。
- 任意のSaaS・社内エンドポイントへの合成HTTP/Traceroute試験を5〜60分間隔で全端末から自動実行し、地域・ISPごとの劣化を統計的に検知する。
- ユーザーから「重い」と申告があった瞬間にリモートでPCAP・WARP診断ログを採取できる(端末を取り上げる必要がない)。
- ヘルプデスクの「ログを送ってください」ワークフローを撤廃できる。
主要機能(What)
- Fleet Status:colo別の接続デバイス数、接続状態(Connected / Disconnected / Paused / Connecting)、クライアントモード分布、OS・WARPバージョン分布、CPU・メモリ使用率の時系列を一画面で提示する。
- Synthetic Application Monitoring (Tests):WARP配下の端末から定期的にHTTPまたはTracerouteを実行する合成監視。
- HTTP Test:5〜60分間隔。Resource fetch time / Server response time / DNS response time / HTTPステータスを測定。公開URL・プライベートホスト名(local domain fallback要登録)どちらも対象。
- Traceroute Test:5〜60分間隔。RTT・Packet loss・Hop数・Hop毎のIP/応答時間/ロス率・Availabilityを測定。
- DEX Rules:どのユーザー・グループ・端末で各テストを実行するかをポリシーで指定する(全社一律ではなくセグメント単位の運用が可能)。
- Remote Captures:管理者がダッシュボードから対象端末(最大10台同時)を指定し、リモートでPCAP・WARP診断ログを採取する機能。
- PCAP:WARPトンネル外(既定インターフェース)と内側の双方を取得。
capture-default.pcap/capture-tunnel.pcap/results.jsonの3点をWiresharkで解析できる。最大600秒・50MB、Windowsは同時実行不可。 - WARP Diagnostic Logs:直近96時間の診断ログ。任意でSplit Tunnelの全ルートテストを併走可能(その間端末性能に影響あり)。100MB超は自動アップロード不可で手動共有となる。
- 対応OSは Windows / macOS / Linux(2024.12.492.0以降)。iOS / Android / ChromeOSは非対応。
- PCAP:WARPトンネル外(既定インターフェース)と内側の双方を取得。
- Test History:合成テストの結果を時系列・端末別・地域別に蓄積。Logpush経由でR2・外部クラウドストレージ・SIEMへ転送可能。既定保持期間は7日。
- Notifications:以下3種のアラートを email / webhook / 三者連携 に発報する。
- Device Connectivity Anomaly(WARP接続のスパイク・ドロップをZ-score ±3.5σで検知)
- DEX Test Latency(HTTP fetch時間・Traceroute RTTの異常)
- DEX Test Low Availability(成功率がSLO閾値(例: 98.0%)を割った場合)
- colo・OS・WARPバージョン・テスト名でフィルタ可能。
- DEX MCP Server:DEXのデータをClaudeなどMCP対応エージェントから問い合わせ可能にする統合(最近追加)。
- EU Customer Metadata Boundary対応:EUコンプライアンス要件下でも利用できる。
アーキテクト視点:いつ選ぶか
適しているシーン
- WARPを既に全社展開している、または展開予定の組織。DEXは追加課金なしで「ついてくる」性格の機能であり、WARP導入の正当化材料にもなる。
- リモートワーク主体・グローバル分散チームで、ヘルプデスクが「ユーザー宅のネットワーク問題」と「アプリ側問題」を切り分ける材料を欲しがっているケース。
- Cloudflare Access / Gateway / Tunnelで既にZero Trustスタックを統一している環境。DEXはこの3者と同じ管理面(Cloudflare One)に乗るため、サイロが増えない。
- SaaS(Microsoft 365、Salesforce等)の地域別劣化を「実ユーザー視点」で監視したいケース。Cloudflareのcolo網を利用するため、社外SaaSの可用性を社員のロケーション別に観測できる。
- VIP端末(経営層・営業担当)の常時状態監視。
適していないシーン
- WARPを導入しない / できない組織。DEXはWARPデバイスから送られるテレメトリで成立しており、エージェントレスでは何も取れない。BYOD で WARP を強制できない場合は別系統(Catchpoint等の合成監視SaaS)を検討する。
- アプリケーション内部のトランザクション・コードレベルのトレースを取りたいケース。これはDatadog APM / New Relic等のAPMの領域であり、DEXは「外形監視+端末状態」に特化する。
- iOS / Android主体のモバイルワーカー集団で詳細PCAPまで欲しいケース。Remote CapturesのPCAP取得はデスクトップ3OS限定である。
- 1分未満の高頻度監視を要するクリティカル業務系。テスト最小間隔は5分である。
競合・代替
| 観点 | Cloudflare DEX | Catchpoint | ThousandEyes (Cisco) | Nexthink | Microsoft Intune Endpoint analytics |
|---|---|---|---|---|---|
| 観測点 | WARP端末+Cloudflare colo | 専用ノード+エンドポイントエージェント | 専用エンタープライズエージェント+Cloud Agent | 端末常駐エージェント+センサー | Intune配下のWindows/macOS端末 |
| 強み | Zero Trustスタックと同管理面・追加課金軽い | 合成監視の老舗・ノード網が広範 | ネットワークパス可視化が圧倒的・BGPまで追える | 端末DEX全般(アプリ起動失敗・クラッシュまで)・ITSM連携 | Intune標準・Windowsとの親和性 |
| 弱み | WARP前提・APMトレースは持たない | 価格高め・端末側DEXは弱い | 高価・運用が重い | 価格高め・ネットワーク深掘りはThousandEyesに劣る | macOS以外は弱い・Cloudflare系SaaS監視は不得手 |
| 価格帯 | Zero Trustプラン内(Free 50ユーザーまで含む) | エンタープライズ商談 | エンタープライズ商談(高額帯) | エンタープライズ商談 | Intune Suite に同梱 |
| 適合 | Cloudflare One採用組織 | グローバルSaaS事業者 | 大企業のネットワーク部門 | エンドユーザー体験を重視する大企業IT | Microsoft 365中心の中堅企業 |
DEXは「WARPを入れてしまえばタダ同然で得られる端末+経路の可視化」というポジショニングであり、専門合成監視(Catchpoint / ThousandEyes)の代替というより、Zero Trust導入の副産物として最初に手を伸ばすべき選択肢である。深掘りが必要になった段階で専門ツールを足す、という二段構えが現実的である。
料金(Cloudflare Zero Trust 上で WARP デバイスが必要、プラン差)
- Free:50ユーザーまでZero Trustの基本機能(Access / Gateway / WARP)が無料。DEXのFleet status・基本的なSynthetic Tests・Remote Capturesも利用可能で、検証・少人数組織であればコストゼロで一通り触れる。
- Pay-as-you-go (Standard):$7/ユーザー/月程度。ユーザー数の制約がなくなり、DEXのテスト本数・履歴量・通知も実運用レベルに広がる。
- Enterprise / SASE bundle:DEX MCP・高度なLogpush連携・SLA・EU Customer Metadata Boundary・複数アカウント横断などが上位プランに紐づく。SASEバンドル(Cloudflare One Enterprise)に組み込むのが一般的である。
DEX独立の課金体系は存在せず、「Zero Trustプラン+WARPデバイスシート」のサブセットとして提供される点が運用上重要である。逆に言えばWARPユーザー数が課金単位そのものになる。
CLI / IaC 操作例
Terraform(cloudflare provider v5)
resource "cloudflare_zero_trust_dex_test" "salesforce_http" {
account_id = var.account_id
name = "Salesforce HTTP"
description = "Salesforce login page reachability from all WARP devices"
enabled = true
interval = "0h5m0s"
target_policies = [{
id = cloudflare_zero_trust_device_settings_policy.default.id
default = true
}]
data = {
host = "https://login.salesforce.com"
kind = "http"
method = "GET"
}
}
resource "cloudflare_zero_trust_dex_test" "internal_api_traceroute" {
account_id = var.account_id
name = "Internal API Traceroute"
enabled = true
interval = "0h15m0s"
data = {
host = "10.20.30.40"
kind = "traceroute"
}
}
通知(Notification policy)
Notification policy はCloudflareダッシュボード(Notifications)で DEX Test Latency / DEX Test Low Availability / Device Connectivity Anomaly を選び、SLO閾値・対象テスト・配信先(email / webhook / PagerDuty 等)を設定する。Terraformでも cloudflare_notification_policy で管理できる。
Logpush(テスト結果の長期保管)
resource "cloudflare_logpush_job" "dex_results" {
account_id = var.account_id
name = "dex-test-results-to-r2"
dataset = "zero_trust_network_sessions" # 該当データセット名は要確認
destination_conf = "r2://dex-logs/{DATE}?account-id=${var.account_id}&access-key-id=...&secret-access-key=..."
enabled = true
}
制限・注意点
- WARP 導入が前提:DEXはWARPクライアントから送られるテレメトリと、WARP配下で実行される合成テストで成立する。WARP未導入の端末・BYODで非同意の端末は完全に観測対象外となる。
- テスト最小間隔は5分:1分未満のリアルタイム監視は不可。クリティカル業務はAPM・外形監視SaaSと併用する。
- Remote Capturesの制約:1キャプチャあたり最大600秒・50MB、対応OSはWindows / macOS / Linux(2024.12.492.0以降)のみ、iOS / Android / ChromeOS非対応、Windowsは同時実行不可、サードパーティのキャプチャツールが干渉する場合がある。
- WARP診断ログ:直近96時間が対象、100MB超は自動アップロード不可で手動共有が必要。
- テスト結果の既定保持は7日:それ以上の長期分析にはLogpush経由でR2・S3・SIEMへ送出する設計が必要となる。
- アラートのZ-scoreは「直近5分 vs 過去4時間」で計算される:恒常的な低品質環境ではベースラインが低く張りつき、異常を検知しづらい。SLO型アラートを併用するのが定石である。
- テスト本数上限・並列度はプラン依存:大量導入時はCloudflareアカウント担当に上限確認が必須である。
- プライベートエンドポイントへの試験:Tunnel経由でCloudflareに引き込まれている、または local domain fallback に登録されているホスト名のみが対象となる。
- DEX単体ではアプリ内処理時間は測れない:HTTP testは外形のresource fetch timeまでである。アプリ内のトランザクション分解はAPMで補完する。
参考リンク
- DEX 概要:https://developers.cloudflare.com/cloudflare-one/insights/dex/
- Synthetic tests:https://developers.cloudflare.com/cloudflare-one/insights/dex/tests/
- HTTP test:https://developers.cloudflare.com/cloudflare-one/insights/dex/tests/http/
- Traceroute test:https://developers.cloudflare.com/cloudflare-one/insights/dex/tests/traceroute/
- Fleet status:https://developers.cloudflare.com/cloudflare-one/insights/dex/fleet-status/
- Remote captures:https://developers.cloudflare.com/cloudflare-one/insights/dex/remote-captures/
- Notifications:https://developers.cloudflare.com/cloudflare-one/insights/dex/notifications/
- Cloudflare One llms.txt:https://developers.cloudflare.com/cloudflare-one/llms.txt
- Terraform
cloudflare_zero_trust_dex_test:https://registry.terraform.io/providers/cloudflare/cloudflare/latest/docs
参照日: 2026-05-03