Web開発 2026年5月10日

Cloudflare Browser Isolation (Cloudflare One)

Cloudflareのエッジ上で実行された「リモートブラウザ」が描画ベクター情報のみをユーザー端末に転送し、JavaScriptや能動コンテンツを端末に一切到達させずにWebを閲覧させる、Network Vector Rendering(NVR)方式のリモートブラウザ分離(Remote Browser Isolation, RBI)サービスである。

Browser Isolation (Cloudflare One)

一行サマリ

Cloudflareのエッジ上で実行された「リモートブラウザ」が描画ベクター情報のみをユーザー端末に転送し、JavaScriptや能動コンテンツを端末に一切到達させずにWebを閲覧させる、Network Vector Rendering(NVR)方式のリモートブラウザ分離(Remote Browser Isolation, RBI)サービスである。

解決する課題(Why)

従来のセキュアWebゲートウェイ(SWG)はURL/カテゴリでブロックする発想であり、未分類ドメインや正規サイトを踏み台にしたゼロデイ・水飲み場攻撃には無力である。一方で従来のRBIはピクセルストリーミングやDOMミラーリング方式が主流で、帯域・遅延・レンダリング崩れの問題からユーザー体験が著しく劣化していた。Cloudflare Browser Isolationは以下を解決する。

  • ブラウザ経由のゼロデイマルウェア・ドライブバイダウンロードの遮断(コードはエッジで実行され端末に届かない)。
  • フィッシングサイトでのキーボード入力禁止による認証情報窃取の抑止。
  • コピー&ペースト・印刷・アップロード・ダウンロードを粒度を持って制御することによる情報持ち出しの抑止(DLPの代替・補完)。
  • BYOD・委託先・契約社員などの非管理端末に対し、エージェント不要で安全な業務Webアクセスを配布。
  • 既存ブラウザのまま使えるため、専用クライアントを配るタイプのRBI(Talon等)に比べ展開コストが極小。

主要機能(What)

  • Network Vector Rendering (NVR):Cloudflare独自方式。リモートブラウザがレンダリングした「描画ベクター」(描画コマンド列)のみをHTML5互換クライアントに転送する。ピクセルストリーミングのような帯域消費もDOMミラーリングのような互換性問題も避け、ローカルブラウザで描画したのと見分けがつかない体験を実現する。
  • Clientless(プレフィックスURL方式)https://<team>.cloudflareaccess.com/browser/<URL> の形式でアクセスするだけで、WARPクライアント無しに任意の端末からRBIを利用できる。BYOD・社外協力者・短期契約者向け。
  • In-line(WARP/Gateway経由):WARPクライアントを入れた管理端末に対しては、通常のURLを透過的にIsolate判定する。ユーザーは普段どおり閲覧し、危険サイトのみ自動的にエッジブラウザへ流れる。
  • Access連携(Clientlessの認可レイヤ):Clientless Web Isolationの入口にCloudflare Accessポリシーを掛けられる。誰がリモートブラウザを使えるか、どのIdPで認証するかをAccessのDSLで制御する。社内Webアプリの保護に使う通常のAccessポリシー(Tier 1参照)と同じ仕組みを再利用する。
  • Data protection controls(bisoadmincontrols:以下6項目を許可/禁止/限定の単位で設定する。
    • Copy(Remote → Client):リモート→ローカル方向のクリップボードコピー。
    • Paste(Client → Remote):ローカル→リモート方向の貼付け。
    • Download:ファイルのローカル保存。view in remote browser only(プレビュー閲覧のみ)も選択可。
    • Upload:ローカルからリモートへのファイルアップロード。
    • Keyboard:キーボード入力。フィッシング疑惑サイトで入力だけ禁止する用途に有効。
    • Print:ローカル印刷。
  • Tunnel連携によるプライベートWebアプリの分離アクセス:Tunnel配下の社内アプリ(例:http://192.168.2.1:7148)へClientless URL経由で到達できる。VPN無しに非管理端末から社内Webを安全に触らせたい場合の決定打。
  • Local Domain Fallback / Do Not Isolate:信頼済みドメインや銀行・社内SaaS等、分離するとUXが壊れるサイトを明示的に除外できる。Local Domain FallbackはGateway側のDNS逃がし機能と組合わせて使う。

アーキテクト視点:いつ選ぶか

適しているシーン

  • 未分類ドメインや短期間しか存在しないフィッシング・C2系ドメインを踏ませる前提で、SWGブロックでは取りこぼす攻撃面を物理的に切り離したい組織。
  • BYOD・業務委託・M&A直後で端末管理が混在しており、エージェント配布が現実的でないケースのSafe Browsing提供。
  • 開発者・SOCがマルウェアサンプルや疑わしいURLを業務として開く必要があり、検体実行を端末に持ち込みたくない。
  • 機密データ取扱い系SaaS(Salesforce / HRIS / 経理)について、ダウンロードと印刷だけ禁止して情報持ち出しを抑える「軽量DLP」用途。
  • 子会社・取引先に対し、Tunnel配下の社内Webアプリへのアクセスを「クライアントレスかつIsolated」で配布したい。

適していないシーン

  • 動画会議・WebRTC・低遅延ゲーム等、リアルタイム双方向メディア前提のアプリ。NVRでも遅延・互換性が問題になりやすい。
  • 帯域が極端に細い回線(モバイル従量課金、海上・現場拠点)。NVRはピクセル方式より軽いが完全にローカルブラウザ並みではない。
  • 「すべてのWebを常にIsolate」の運用設計。コスト・体感・対応外サイトの観点で破綻するため、リスクベースで部分適用するのが定石。
  • エンドポイントDLPの全代替。クリップボード/印刷/DLは抑えられるが、スクリーンショットや写真撮影には無力で、エンドポイントEDR/DLPと併用する前提である。

競合・代替

観点Cloudflare RBIMenlo SecurityZscaler Cloud BrowserTalon (Palo Alto Prisma Access Browser)
レンダリング方式Network Vector Rendering(描画コマンド転送)DOM Mirroring / Adaptive Clientless Renderingピクセル/DOM混合専用Chromiumフォーク(端末側で実行)
クライアント不要(既存ブラウザのまま)不要不要(Zscalerクライアント有でも可)専用ブラウザ配布が必要
Clientless URLあり(/browser/<URL>ありあり概念が異なる(ブラウザ自体が境界)
Access/ZTNA統合Cloudflare Access / Tunnelとネイティブ連携単体製品寄り、ZTNAは別連携Zscaler Private Access統合Prisma Access統合
DLPコントロールclipboard / print / DL / UL / keyboard同等同等ブラウザ内ポリシーで強力
強みエッジ網のレイテンシ優位・他Cloudflare One機能と一体・既存ブラウザ流用RBI専業の歴史と精度大企業向けSWG/ZTNAスイート統合エンタープライズブラウザというカテゴリ自体の強さ
弱みRBI単体としての成熟度では老舗に一歩譲る側面スイート全体の選択肢が狭いアーキテクチャが重い・価格端末側に専用ブラウザ配布の運用コスト
価格モデルZero Trust Pay-as-you-go / Enterpriseのアドオンエンタープライズ商談エンタープライズ商談エンタープライズ商談(買収後Prisma配下)

Cloudflareの差別化要素は「Access / Gateway / Tunnel / WARPと同じコントロールプレーンに乗っていること」「NVRによるUXの近さ」であり、Zero Trust一式をCloudflareで揃える前提なら第一候補となる。

料金

  • Free / Pay-as-you-go ベース:Browser IsolationはCloudflare Zero Trustのアドオンとして提供される。
  • Pay-as-you-go:ユーザー単位の従量課金にBrowser Isolationアドオン料金が加算される(公開Webでは「Pay-as-you-goおよびEnterpriseプランへのアドオン」と明記)。
  • Enterprise:契約に組込み可能。SCIM・User Risk Score・SLAなどとセットで提案される。

無料枠50ユーザーのZero Trust基本機能には含まれない点が、Tier 1で扱ったAccessとの大きな違いである。RBIを使う段階で課金プランへの移行が必要となる。

CLI / IaC 操作例

Terraform:Isolateアクション付きGatewayポリシー(HTTPルール)

Browser Isolationは cloudflare_zero_trust_gateway_policyaction = "isolate" で発動し、rule_settings.bisoadmincontrols で粒度制御を行う。

resource "cloudflare_zero_trust_gateway_policy" "isolate_uncategorized" {
  account_id  = var.account_id
  name        = "Isolate uncategorized & risky categories"
  description = "未分類・新規ドメイン・セキュリティリスクをRBIへ"
  precedence  = 100
  enabled     = true
  action      = "isolate"
  filters     = ["http"]

  # 未分類 + 新規ドメイン + Security Risksカテゴリ
  traffic = "any(http.request.uri.content_category[*] in {1 2 3})"

  rule_settings = {
    biso_admin_controls = {
      dcp = true   # disable copy   (Remote -> Client)
      dp  = true   # disable paste  (Client -> Remote)
      dd  = true   # disable download
      du  = true   # disable upload
      dk  = false  # keyboard許可(業務閲覧のため)
      dpr = true   # disable print
    }
  }
}

Terraform:機密SaaSの「ダウンロード/印刷だけ禁止」軽量DLPパターン

resource "cloudflare_zero_trust_gateway_policy" "isolate_hris" {
  account_id = var.account_id
  name       = "Isolate HRIS - block download/print only"
  precedence = 50
  enabled    = true
  action     = "isolate"
  filters    = ["http"]

  traffic = "any(http.request.host in {\"hris.example.com\"})"

  rule_settings = {
    biso_admin_controls = {
      dcp = false
      dp  = false
      dd  = true
      du  = false
      dk  = false
      dpr = true
    }
  }
}

Clientless URL(運用例)

https://<team-name>.cloudflareaccess.com/browser/https://intranet.internal/

このURLの前段にAccess applicationを掛けることで、認証済みユーザーだけがClientless RBI経由で社内Tunnelアプリに到達できる構成を組める。

制限・注意点

  • HTTPポリシーの適用にはTLS復号が必須。証明書ピン留めしているサイト・アプリではIsolate配下で動かない場合がある。
  • WebRTC / 動画会議系は遅延と互換性の問題で実用に耐えないことが多い。Do Not Isolateで明示除外する設計が前提。
  • PDF・大容量メディアはリモートブラウザ内ビューア(view in remote browser only)に閉じ込めると安全側に倒せるが、ローカル編集ワークフローとは衝突する。
  • 同時セッション数:ブラウザ種別あたりの同時インスタンス数に上限がある(公式トラブルシュートで言及。「No Browsers Available」エラー)。重め業務での前提条件として把握しておくこと。
  • Clientless URLの公開範囲:Access policyを正しく組まないと、/browser/<任意URL> で社内Tunnelの全アプリに到達されうる。AccessのIncludeを必ず人/グループ単位に絞る。
  • AccessのBypassポリシー併用時の注意:Tier 1で触れたとおり、Bypassは制御を完全に外す。Clientless RBIの入口でBypassを多用するとRBIごと素通りされるため、原則Service Authで代替する。
  • OS・GPU依存の描画問題:Windowsで稀にWebGL関連エラー・空白描画が発生する。ソフトウェアラスタライゼーション設定で回避できるケースがあるが、業務利用前のパイロット検証必須。
  • コスト跳ね:「全URLをIsolate」設計は、ユーザー数 × トラフィックでアドオン費用が跳ねる。リスクカテゴリ・未分類・特定SaaSなど対象を絞った設計が定石である。

参考リンク


参照日: 2026-05-03