Cloudflare Browser Isolation (Cloudflare One)
Cloudflareのエッジ上で実行された「リモートブラウザ」が描画ベクター情報のみをユーザー端末に転送し、JavaScriptや能動コンテンツを端末に一切到達させずにWebを閲覧させる、Network Vector Rendering(NVR)方式のリモートブラウザ分離(Remote Browser Isolation, RBI)サービスである。
Browser Isolation (Cloudflare One)
一行サマリ
Cloudflareのエッジ上で実行された「リモートブラウザ」が描画ベクター情報のみをユーザー端末に転送し、JavaScriptや能動コンテンツを端末に一切到達させずにWebを閲覧させる、Network Vector Rendering(NVR)方式のリモートブラウザ分離(Remote Browser Isolation, RBI)サービスである。
解決する課題(Why)
従来のセキュアWebゲートウェイ(SWG)はURL/カテゴリでブロックする発想であり、未分類ドメインや正規サイトを踏み台にしたゼロデイ・水飲み場攻撃には無力である。一方で従来のRBIはピクセルストリーミングやDOMミラーリング方式が主流で、帯域・遅延・レンダリング崩れの問題からユーザー体験が著しく劣化していた。Cloudflare Browser Isolationは以下を解決する。
- ブラウザ経由のゼロデイマルウェア・ドライブバイダウンロードの遮断(コードはエッジで実行され端末に届かない)。
- フィッシングサイトでのキーボード入力禁止による認証情報窃取の抑止。
- コピー&ペースト・印刷・アップロード・ダウンロードを粒度を持って制御することによる情報持ち出しの抑止(DLPの代替・補完)。
- BYOD・委託先・契約社員などの非管理端末に対し、エージェント不要で安全な業務Webアクセスを配布。
- 既存ブラウザのまま使えるため、専用クライアントを配るタイプのRBI(Talon等)に比べ展開コストが極小。
主要機能(What)
- Network Vector Rendering (NVR):Cloudflare独自方式。リモートブラウザがレンダリングした「描画ベクター」(描画コマンド列)のみをHTML5互換クライアントに転送する。ピクセルストリーミングのような帯域消費もDOMミラーリングのような互換性問題も避け、ローカルブラウザで描画したのと見分けがつかない体験を実現する。
- Clientless(プレフィックスURL方式):
https://<team>.cloudflareaccess.com/browser/<URL>の形式でアクセスするだけで、WARPクライアント無しに任意の端末からRBIを利用できる。BYOD・社外協力者・短期契約者向け。 - In-line(WARP/Gateway経由):WARPクライアントを入れた管理端末に対しては、通常のURLを透過的にIsolate判定する。ユーザーは普段どおり閲覧し、危険サイトのみ自動的にエッジブラウザへ流れる。
- Access連携(Clientlessの認可レイヤ):Clientless Web Isolationの入口にCloudflare Accessポリシーを掛けられる。誰がリモートブラウザを使えるか、どのIdPで認証するかをAccessのDSLで制御する。社内Webアプリの保護に使う通常のAccessポリシー(Tier 1参照)と同じ仕組みを再利用する。
- Data protection controls(
bisoadmincontrols):以下6項目を許可/禁止/限定の単位で設定する。- Copy(Remote → Client):リモート→ローカル方向のクリップボードコピー。
- Paste(Client → Remote):ローカル→リモート方向の貼付け。
- Download:ファイルのローカル保存。
view in remote browser only(プレビュー閲覧のみ)も選択可。 - Upload:ローカルからリモートへのファイルアップロード。
- Keyboard:キーボード入力。フィッシング疑惑サイトで入力だけ禁止する用途に有効。
- Print:ローカル印刷。
- Tunnel連携によるプライベートWebアプリの分離アクセス:Tunnel配下の社内アプリ(例:
http://192.168.2.1:7148)へClientless URL経由で到達できる。VPN無しに非管理端末から社内Webを安全に触らせたい場合の決定打。 - Local Domain Fallback / Do Not Isolate:信頼済みドメインや銀行・社内SaaS等、分離するとUXが壊れるサイトを明示的に除外できる。Local Domain FallbackはGateway側のDNS逃がし機能と組合わせて使う。
アーキテクト視点:いつ選ぶか
適しているシーン
- 未分類ドメインや短期間しか存在しないフィッシング・C2系ドメインを踏ませる前提で、SWGブロックでは取りこぼす攻撃面を物理的に切り離したい組織。
- BYOD・業務委託・M&A直後で端末管理が混在しており、エージェント配布が現実的でないケースのSafe Browsing提供。
- 開発者・SOCがマルウェアサンプルや疑わしいURLを業務として開く必要があり、検体実行を端末に持ち込みたくない。
- 機密データ取扱い系SaaS(Salesforce / HRIS / 経理)について、ダウンロードと印刷だけ禁止して情報持ち出しを抑える「軽量DLP」用途。
- 子会社・取引先に対し、Tunnel配下の社内Webアプリへのアクセスを「クライアントレスかつIsolated」で配布したい。
適していないシーン
- 動画会議・WebRTC・低遅延ゲーム等、リアルタイム双方向メディア前提のアプリ。NVRでも遅延・互換性が問題になりやすい。
- 帯域が極端に細い回線(モバイル従量課金、海上・現場拠点)。NVRはピクセル方式より軽いが完全にローカルブラウザ並みではない。
- 「すべてのWebを常にIsolate」の運用設計。コスト・体感・対応外サイトの観点で破綻するため、リスクベースで部分適用するのが定石。
- エンドポイントDLPの全代替。クリップボード/印刷/DLは抑えられるが、スクリーンショットや写真撮影には無力で、エンドポイントEDR/DLPと併用する前提である。
競合・代替
| 観点 | Cloudflare RBI | Menlo Security | Zscaler Cloud Browser | Talon (Palo Alto Prisma Access Browser) |
|---|---|---|---|---|
| レンダリング方式 | Network Vector Rendering(描画コマンド転送) | DOM Mirroring / Adaptive Clientless Rendering | ピクセル/DOM混合 | 専用Chromiumフォーク(端末側で実行) |
| クライアント | 不要(既存ブラウザのまま) | 不要 | 不要(Zscalerクライアント有でも可) | 専用ブラウザ配布が必要 |
| Clientless URL | あり(/browser/<URL>) | あり | あり | 概念が異なる(ブラウザ自体が境界) |
| Access/ZTNA統合 | Cloudflare Access / Tunnelとネイティブ連携 | 単体製品寄り、ZTNAは別連携 | Zscaler Private Access統合 | Prisma Access統合 |
| DLPコントロール | clipboard / print / DL / UL / keyboard | 同等 | 同等 | ブラウザ内ポリシーで強力 |
| 強み | エッジ網のレイテンシ優位・他Cloudflare One機能と一体・既存ブラウザ流用 | RBI専業の歴史と精度 | 大企業向けSWG/ZTNAスイート統合 | エンタープライズブラウザというカテゴリ自体の強さ |
| 弱み | RBI単体としての成熟度では老舗に一歩譲る側面 | スイート全体の選択肢が狭い | アーキテクチャが重い・価格 | 端末側に専用ブラウザ配布の運用コスト |
| 価格モデル | Zero Trust Pay-as-you-go / Enterpriseのアドオン | エンタープライズ商談 | エンタープライズ商談 | エンタープライズ商談(買収後Prisma配下) |
Cloudflareの差別化要素は「Access / Gateway / Tunnel / WARPと同じコントロールプレーンに乗っていること」「NVRによるUXの近さ」であり、Zero Trust一式をCloudflareで揃える前提なら第一候補となる。
料金
- Free / Pay-as-you-go ベース:Browser IsolationはCloudflare Zero Trustのアドオンとして提供される。
- Pay-as-you-go:ユーザー単位の従量課金にBrowser Isolationアドオン料金が加算される(公開Webでは「Pay-as-you-goおよびEnterpriseプランへのアドオン」と明記)。
- Enterprise:契約に組込み可能。SCIM・User Risk Score・SLAなどとセットで提案される。
無料枠50ユーザーのZero Trust基本機能には含まれない点が、Tier 1で扱ったAccessとの大きな違いである。RBIを使う段階で課金プランへの移行が必要となる。
CLI / IaC 操作例
Terraform:Isolateアクション付きGatewayポリシー(HTTPルール)
Browser Isolationは cloudflare_zero_trust_gateway_policy の action = "isolate" で発動し、rule_settings.bisoadmincontrols で粒度制御を行う。
resource "cloudflare_zero_trust_gateway_policy" "isolate_uncategorized" {
account_id = var.account_id
name = "Isolate uncategorized & risky categories"
description = "未分類・新規ドメイン・セキュリティリスクをRBIへ"
precedence = 100
enabled = true
action = "isolate"
filters = ["http"]
# 未分類 + 新規ドメイン + Security Risksカテゴリ
traffic = "any(http.request.uri.content_category[*] in {1 2 3})"
rule_settings = {
biso_admin_controls = {
dcp = true # disable copy (Remote -> Client)
dp = true # disable paste (Client -> Remote)
dd = true # disable download
du = true # disable upload
dk = false # keyboard許可(業務閲覧のため)
dpr = true # disable print
}
}
}
Terraform:機密SaaSの「ダウンロード/印刷だけ禁止」軽量DLPパターン
resource "cloudflare_zero_trust_gateway_policy" "isolate_hris" {
account_id = var.account_id
name = "Isolate HRIS - block download/print only"
precedence = 50
enabled = true
action = "isolate"
filters = ["http"]
traffic = "any(http.request.host in {\"hris.example.com\"})"
rule_settings = {
biso_admin_controls = {
dcp = false
dp = false
dd = true
du = false
dk = false
dpr = true
}
}
}
Clientless URL(運用例)
https://<team-name>.cloudflareaccess.com/browser/https://intranet.internal/
このURLの前段にAccess applicationを掛けることで、認証済みユーザーだけがClientless RBI経由で社内Tunnelアプリに到達できる構成を組める。
制限・注意点
- HTTPポリシーの適用にはTLS復号が必須。証明書ピン留めしているサイト・アプリではIsolate配下で動かない場合がある。
- WebRTC / 動画会議系は遅延と互換性の問題で実用に耐えないことが多い。Do Not Isolateで明示除外する設計が前提。
- PDF・大容量メディアはリモートブラウザ内ビューア(
view in remote browser only)に閉じ込めると安全側に倒せるが、ローカル編集ワークフローとは衝突する。 - 同時セッション数:ブラウザ種別あたりの同時インスタンス数に上限がある(公式トラブルシュートで言及。「No Browsers Available」エラー)。重め業務での前提条件として把握しておくこと。
- Clientless URLの公開範囲:Access policyを正しく組まないと、
/browser/<任意URL>で社内Tunnelの全アプリに到達されうる。AccessのIncludeを必ず人/グループ単位に絞る。 - AccessのBypassポリシー併用時の注意:Tier 1で触れたとおり、Bypassは制御を完全に外す。Clientless RBIの入口でBypassを多用するとRBIごと素通りされるため、原則Service Authで代替する。
- OS・GPU依存の描画問題:Windowsで稀にWebGL関連エラー・空白描画が発生する。ソフトウェアラスタライゼーション設定で回避できるケースがあるが、業務利用前のパイロット検証必須。
- コスト跳ね:「全URLをIsolate」設計は、ユーザー数 × トラフィックでアドオン費用が跳ねる。リスクカテゴリ・未分類・特定SaaSなど対象を絞った設計が定石である。
参考リンク
- Browser Isolation 概要:https://developers.cloudflare.com/cloudflare-one/policies/browser-isolation/
- Isolation policies(bisoadmincontrols):https://developers.cloudflare.com/cloudflare-one/policies/browser-isolation/isolation-policies/
- Setup(In-line / Clientless):https://developers.cloudflare.com/cloudflare-one/policies/browser-isolation/setup/
- Clientless Web Isolation:https://developers.cloudflare.com/cloudflare-one/policies/browser-isolation/setup/clientless-browser-isolation/
- Troubleshooting:https://developers.cloudflare.com/cloudflare-one/policies/browser-isolation/troubleshooting/
- Terraform Provider(cloudflare_zero_trust_gateway_policy):https://registry.terraform.io/providers/cloudflare/cloudflare/latest/docs/resources/zero_trust_gateway_policy
参照日: 2026-05-03